JLLの集計によると、2024年の大阪圏における商業用不動産投資額は1.2兆円となり、同社がデータ観測を始めた2008年以降で最高額を記録しました。ただし、この数字は投資用不動産の取引額であり、店舗や事務所の賃料、空室率、募集件数が同じ方向へ動いたことを直接示すものではありません。本記事では、投資額の内訳と集計範囲を確認したうえで、物件を借りる事業者や不動産オーナーが市況を判断するときに、投資市場の数字をどう扱えばよいか整理しておきましょう。
2024年の大阪圏の投資額は1.2兆円
JLL「日本の不動産投資市場をけん引する大阪」によると、2024年の大阪圏の商業用不動産投資額は前年比107%増の1.2兆円でした。1兆円を超えたのは初めてで、2008年の観測開始以降の最高額です。同じ資料では、2024年の日本全体の商業用不動産投資額を前年比63%増の5.5兆円とし、エリア別の構成比は首都圏56%、大阪圏22%としています。
ここでいう大阪圏は、大阪府だけではありません。JLLの図表では大阪府・兵庫県・京都府・奈良県を対象としています。また、土地の取引や開発計画への投資などは集計から除かれています。「大阪市内の店舗売買が1.2兆円あった」「関西のすべての不動産取引が増えた」という意味ではないため、数字の対象と定義を分けて読む必要があります。
投資対象はオフィスだけではない
JLLが示した2024年の全国集計では、投資額のセクター別構成比はオフィス36%、物流施設24%、ホテル19%でした。大阪圏については、2014年から2024年までの投資額に占めるホテルの割合が16%で、首都圏の6%を上回ったと説明されています。さらに大阪圏のホテル割合は2023年に28%、2024年に34%となっています。
この内訳から確認できるのは、商業用不動産投資が店舗だけを対象とした数字ではなく、オフィス、物流施設、ホテルなど複数の用途を含むことです。投資額が過去最高になった事実だけを根拠に、特定の商店街の賃料や個別テナントの出店需要まで説明することはできません。用途ごとの市場を判断する場合は、対象用途に合った賃料、空室、供給、成約などの資料を別に確かめる必要があります。
投資額の増加と賃貸市場は分けて考える
投資市場では、投資家による物件の取得や売却が集計対象になります。一方、賃貸市場で事業者が確認するのは、募集賃料、共益費、保証金、空室状況、引渡し条件、設備容量、工事の可否などです。投資額が増えた年でも、個別物件の募集条件が一律に上がるとは限りません。大型物件の取引が集中すれば、取引件数が多くなくても投資額が大きくなる可能性があります。
店舗賃料については、投資額とは別の市場資料を参照する必要があります。たとえばCBRE「関西主要マーケット店舗賃料相場 2025」は、梅田の一等地路面店舗について、募集区画が枯渇し賃料水準が上昇しつつあると記載しています。これは梅田の路面店舗に関する説明であり、大阪圏全体の店舗、事務所、倉庫へそのまま広げることはできません。希望物件を比較するときは、投資市場の概況と、対象エリア・用途の募集条件を別々に確認すると判断しやすくなります。
2024年の最高額を将来予測として使わない
JLLの資料は2025年3月31日に公開され、2024年の実績を分析したものです。同資料は、大阪圏で投資意欲がある一方、2025年は超大型物件の売り物件が少なくなり、投資額が大きく減る可能性にも触れています。投資額は買い手の意欲だけでなく、市場に売却物件が出るか、どの規模の取引が成立するかによって変わります。
したがって、2024年の1.2兆円を根拠に「現在も過去最高の勢いが続いている」「今後も投資額が増え続ける」とは判断できません。後年の状況を調べる場合は、同じ調査会社の更新資料で対象期間と集計方法をそろえて比較する必要があります。異なる会社の数字を比べるときも、対象地域、アセット区分、取引の計上時点、土地・開発案件を含むかを確認しておくと、見かけ上の差を市場変化と取り違えにくくなります。
出店・移転を検討するテナントが確認したい情報
出店や移転を検討するテナントにとって、投資額は地域全体の資金の動きを知る参考資料の一つです。ただし、物件選定では募集図面と現地の情報を優先し、月額賃料だけでなく、共益費、保証金・敷金、償却、更新条件、原状回復、指定工事、電気・給排水・ガス・空調の条件まで確認する必要があります。同じエリアでも、階数、面積、前面道路、視認性、引渡し状態、利用できる設備によって比較結果は変わります。
候補物件を比較するときは、同じ条件表を使うと差を把握しやすくなります。立地と面積だけで選ばず、毎月支払う費用、契約時に必要な費用、解約時に返還されない費用、工事区分、営業に必要な設備、営業時間や用途の制限を並べます。未確定の項目は空欄のまま判断せず、仲介会社や貸主側へ質問して回答を記録しましょう。投資市場のニュースは背景情報にとどめ、出店・移転の判断は募集資料、契約条件、現地調査で補うという切り分けが欠かせません。
出典・参考資料
- JLL「日本の不動産投資市場をけん引する大阪(関西)―2024年の商業用不動産投資額は過去最多、初の1兆円超え」2025年3月31日公開、https://www.jll.com/ja-jp/insights/osaka-leads-the-japan-real-estate-investment-market
- CBRE「関西主要マーケット店舗賃料相場 2025」2025年1月6日掲載・2026年1月6日更新、https://www.cbre.co.jp/properties/column/retail/market/romen-2025-kansai
まとめ
2024年の大阪圏の商業用不動産投資額が1.2兆円となり、JLLの観測開始以降で最高額を記録したことは確認できます。一方、この実績から店舗賃料、空室率、物件供給や将来の投資額まで一律に判断することはできません。投資市場の数字は集計範囲と用途を確認して背景情報として使い、出店・移転や募集条件の判断では、対象物件と対象エリアの最新資料を組み合わせるのが適切です。
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